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釧路地方裁判所 昭和47年(わ)24号 判決

事務所所在地

北海道野付郡別海町尾岱沼港町一八二番地

野付漁業協同組合

右代表者組合長理事

戸田信竜

本籍及び住居

北海道野付郡別海町尾岱沼 見町一四〇番地

漁業協同組合役員

戸田信竜

大正六年七月二一日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官岸肇出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告野付漁業協同組合を罰金一二〇万円に、被告人戸田信竜を罰金三〇万円に各処する。

被告人戸田信竜において右罰金を完納することができないときは、金五、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人戸田信竜の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告野付漁業協同組合(以下被告組合という)は、組合員の漁獲物その他生産物の販売並びに水産物植物の繁殖保護などの事業を行うもの、被告人戸田信竜(以下被告人戸田という)は昭和二八年五月から同組合の専務理事として、昭和四六年二月二〇日からは同組合の組合長理事として、同組合の業務全般を統轄していたものであるが、被告人戸田は、被告組合の業務に関し、不正の行為により法人税を免れようと企て、

第一  昭和四三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において、被告組合の所得金額が八六一万八、一八三円で、これに対する法人税額が一九〇万一、二〇〇円であるにもかかわらず、収入の一部を除外してこれを公表経理上架空負債に計上するなどの不正手段により所得を秘匿したうえ、昭和四四年二月二八日北海道根室市大正町二番地所在の根室税務署において、同税務署長に対し、所得金額二三九万七、二二五円でこれに対する法人税額は四七万六、六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、正規の法人税額と申告税額との差額一四二万四、六〇〇円を法定の納期限までに納付せず、

第二  昭和四四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において、被告組合の所得金額が一、〇三三万一、〇三四円でこれに対する法人税額が二二三万八〇〇円であるにもかかわらず、前同様の不正手段により所得を秘匿したうえ、昭和四五年二月二八日前記根室税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四八七万二、四八四円でこれに対する法人税額は九七万五、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、正規の法人税額と申告税額の差額一二五万五、六〇〇円を法定の納期日までに納付せず、

第三  昭和四五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において、被告組合の所得金額が二、〇一四万九、四四一円で、これに対する法人税額が四三二万九、七〇〇円であるにもかかわらず、前同様の不正手段により所得を秘匿したうえ、昭和四六年三月一日前記根室税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一、〇七四万八、九八八円でこれに対する法人税額は二一六万七、五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、正規の法人税額と申告税額との差額二一六万二、二〇〇円を法定の納期限まで納付せず、

もつて、それぞれ不正の行為により右各差額と同額の法人税を免れたものである。

(証拠の標目)

判示事実全体につき

一、和田雅美、大橋徳雄、石川三穂、村山保(二通)、池田幸雄、佐藤経勇、村山信子、内平清吉の検察官に対する各供述調書

一、大橋徳雄、宮越充(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、北海道野付郡別海町長上杉貞作成の援助金等の支払状況についての回答書

一、証人宮越充に対する当裁判所の尋問調書並びに同人の検察官に対する供述調書四通

一、被告人戸田信竜の当公判廷における供述並びに検察官に対する供述調書五通

一、領置してある法人税決議書綴(昭和四七年押第二三号の1)、諸規程綴(同号の5)、普通貯金元帳(販売課長名義、四枚綴のもの)(同号の63)、普通貯金台帳(水産研究室運営協議会名義)(同号の71)、普通貯金元帳(納税協力会和田雅且名義)(同号の75)、普通貯金台帳(外務員代表池田幸雄名義)(同号の78)、普通貯金台帳(組合在宅管理者宮越充名義)(同号の79)、村税納入事務補助金綴(同号の85)、賞与計算書綴(同号の88)、昭和四三年総会議事録(同号の89)各一綴

判示第一の事実につき

一、領置してある昭和四三年度総勘定元帳一冊(昭和四七年押第二三号の2)、仕訳日計表綴二二綴(同号の6乃至26・66)、販売精算書控一綴(同号の67)、貯金台帳(販売課長大橋一雄名義)一枚(同号の70)、普通貯金元帳(池田勝正名義)一枚(同号の73)、歩戻し金明細書(同号の80)昭和四三年度系統機関及び系統外普通預金出入帳一冊(同号の81)、養老貯金台帳(組合歩戻し分)一枚(同号の84)、昭和四三年二月以降理事会議事録一綴(同号の90)、昭和四三年一二月以降理事会議事録一綴(同号の91)、給与支払帳一冊(同号の92)

判示第二の事実につき

一、領置してある昭和四四年度総勘定元帳一冊(昭和四七年押第二三号の3)、仕訳日計表綴二二綴(同号の27乃至47・66)、普通貯金元帳(水産振興会代表和田雅且名義)一綴(同号の72)、普通貯金台帳(鮭鱒保護協会名義)一綴(同号の76)、歩戻し金明細書一綴(同号の80)給与支払帳一冊(同号の92)、

判示第三の事実につき

一、領置してある昭和四五年度総勘定元帳一冊(昭和四七年押第二三号の4)、仕訳日計表綴一九綴(同号の48乃至65)(普通貯金元帳(販売課名義、二枚綴のもの)一綴(同号の69)普通貯金元帳(水産振興会代表和田雅且名義)一綴(同号の78)、普通貯金元帳(競進期成会大橋徳雄名義)一綴(同号の74)、普通貯金台帳一綴(鮭鱒保護協力会名義)(同号の76)、普通貯金元帳(村づくり期成会名義)一綴(同号の77)、昭和四五年冷蔵庫売上台帳一冊(同号の82)、昭和四五年市場仕切精算書綴一綴(同号の83)、所得税源泉徴収簿一綴(同号の86)、給料諸手当決定控一綴(同号の87)、

なお、弁護人は、昭和四三年度、同四四年度における被告組合の法人税確定申告は、いずれも当時の被告組合代表者であつた故和田雅且名義でなされたものであつて、代表権限もなく、同組合の専務理事として右申告書の作成に関与したにすぎない被告人戸田は、法人税法一五九条一項違反の犯罪主体になりえない旨主張するので付言するに、

法人税法一五九条一項は、同項に列挙されている違反行為をなした「法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者」を処罰する旨規定しているが、昭和四三年度、同四四年度の法人税確定申告当時、被告組合の代表権限は一切組合長である故和田雅且に戻し、被告人戸田は当時専務理事の職にはあつたが、対外的な代表権を全く有していなかつたのであるから、同被告人が同組合の「代表者」であるということはできず、また同被告人が同組合の「代理人」、「使用人」に該当しないことも弁護人主張のとおりである。そこで、被告人戸田が同条項にいう「その他の従業者」に該当するか否かにつき検討するに、同条項にいう「従業者」とは、法人の業務活動に直接、間接に従事する者を広く包含する趣旨と解せられ、同条項にいう「使用人」も「従業者」の一例示にすぎないと考えられるから、右申告当時、代表権限はなかつたものの専務理事として被告組合の事務全般を担当していた被告人戸田は、同条項にいう「その他の従業者」に該当するというべきである。そして、被告人戸田は、組合長であつた故和田雅且が、自らも漁業を営み組合の業務に専心できないという事情から、昭和二八年五月専務理事に選ばれ、組合事務所に常勤して組合長の職務権限に属するほとんど一切の事務を処理して組合の事務全般を統轄し、組合の経理、会計事務についても最終決裁をなし、昭和四三年度、同四四年度の法人税確定申告に際しては、同申告が法人税法違反になることを承知しながら、同組合会計主任宮越充が作成した組合長和田雅且の記名入りの申告書に、自己が使用の権限を委ねられていた右和田の印鑑を押捺し、組合職員をして根室税務署長に提出させていたのであるから、被告人戸田が同条項にいう、「その違反行為をした者」に該当することも明らかである。

(法令の適用)

判示第一乃至第三の事実は、被告組合については、法人税法一六四条一項、一五九条一項に、被告人戸田については同法一五九条一項にそれぞれ該当するので、被告人戸田につき、いずれも罰金刑を選択し、以上は、各刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告組合を罰金一二〇万円に、被告人戸田を罰金三〇万円にそれぞれ処し、被告人戸田が右の罰金を完納することができないときには、同法一八条により、金五、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して被告人戸田に負担させることとする。

(被告人戸田についての量刑の理由)

本件犯行は、納税についての義務感の欠除と、税務会計事務処理についての無知、無理解から、多額の脱税を犯すに至つたものであつて、専務理事及び組合長として長年被告組合の事務全体を統轄してきた被告人戸田の社会的責任は重大であるといわなければならない。しかしながら、被告人戸田は、脱税額の一部を賞与として受取つてはいるけれども、全体的にみれば、本件犯行は同被告人の私利私欲のため行われたものではなく、組合の正式機関の承認の下に、組合設立当初の財政困窮の経験に鑑みて、組合内に資金を留保し、将来の不測の事態に備え、被告組合の利益ひいては組合全体の福祉向上をはかろうとしてなされたものと認められるから、その動機については、同情すべき点もあり、また本件発覚後、被告組合が滞納税、延滞税並びに重加算税を全額支払つたことにより被害が回復されていること、被告人戸田は性格的にも真面目で、本件犯行を真摯に反省しており再犯のおそれもないこと、同被告人が本件起訴によつて十分な社会的制裁を受けていることなど諸般の事情を考慮して、罰金刑を選択したうえ主文のとおり量刑した次第である。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺昭 裁判官 小杉丈夫 裁判官菅野孝久は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 渡辺昭)

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